ボラティリティと中央銀行
為替はドル/円、ユーロ/円の為替の動きを追う、チャートを分析する、
各国の景気動向や金利動向をチェックする、
といった背景を軸に取引が展開しますが、
今回は、「そもそも為替というのは、世界から見てどのようなものなのか?」
ということについて、その概観を捉えていただくことにトライしてみたいと思います。
為替はそのものは、株のように半分になるとか、10倍になったといったことは、
実はほとんどありません。
歴史的に見ても、世界規模の戦争や、
国家レベルでのデフォルト(財政破綻、つまり国家の倒産)でも起こらない限り、
その通貨の価値はある程度、マーケットリスクや地政学リスク等の変動要因に対して、
一定に保たれるようにコントロールされています。
そのコントロールの担い手は誰か?
直接的には、中央銀行がコントロールしています。
よく「通貨当局」とメディアで言われているものの正体は、中央銀行です。
中央銀行は、日本であれば日本銀行、アメリカであればFRBです。
中央銀行は銀行の銀行として、マーケットに資金供給をしたり、
あるいは資金の流通を抑えることにより、
マーケットの加熱を抑えたり、マーケットの冷え込みを回避したりします。
まさに各国経済の心臓部を担っているわけです。
したがって、日銀やFRBは、マーケットにおいて非常に強大なプレイヤーです。
彼らはチャートを動かす存在です。常に動向に注意をしてください。
これが分かりますと、日銀総裁の発言にもおのずと注目できますね。
ここでいったん、通貨の話に戻ります。
それぞれの通貨には、ボラティリティ(変動しやすさ)というものがあり、
それぞれが異なるボラティリティを持っています。
ここは通貨取引においては観察すべきです。
キーワードは、「ヒストリカル・ボラティリティ」です。
通貨ごとに、たとえば過去1年分(一般的に250営業日)の「前日比」について、
標準偏差を求めたものです。
標準偏差というと難しいですが、
ここでは「過去のデータから見た、変動のしやすさ」を表すための、
統計的に最もポピュラーな手法です。
標準偏差=6.78%
となった場合は、
変動率±6.78%に収まる確率が、「68.3%」である、ということです。
「じゃあ30%くらいはそれ以上に変動するかもしれないのね・・・」と
不安のお持ちの方のために、もっと絞ってみます。
変動率を2倍にします。
±13.56%に収まる確率は、「95・4%」
こうすると、よほどのことがない限りは、これ以上変動しなさそうですね。
「65.4」「95.4」というのは、
標準偏差特有の数値ですので、ここでは気にしないでください。
だいたいボラティリティが高ければハイリスク、
低ければリスクは低めということになります。
ボラティリティの変動要因はそれこそ国家や経済を取り巻くあらゆるものです。
しかしそのボラティリティは、コントロールされています。
誰がコントロールしているのでしょうか?
中央銀行です。
ボラティリティは、各通貨の後ろ楯としての通貨当局、
つまり中央銀行や政府の動きと、国家としての相対的強さ(軍事や経済などの国力)に
依存します。
よく先進7ヵ国蔵相会議(G7)で通貨安定について話し合われています。
これは強い通貨を持つ国同士でボラを下げようと協調している、ということです。
為替レートのコントロールは、その中身は微妙に異なります。
歴史的には1973年以降の対ドルの変動相場制への移行があります。
それまでは、固定レートでした。
最近では人民元の変動制への移行があります。
固定制は中央銀行が為替レートの決定を市場に一切譲らず、
政府同士の取り決めでした。
変動制は市場に任せるということですが、
為替の場合は各国の通貨当局もプレイヤーとして参加して圧倒的な資金力で
変動の度合いをコントロールしています。
さきほど、中央銀行を「心臓」と表現しました。変動相場制だからこそ、
心臓が心臓たりえるのであり、
激しい運動をしている時の脈拍や血圧のコントロールに似ています。
固定されていない、かといって、変動の幅が急激過ぎない。
だからこそ統計的に将来をも分析可能なレベルに落ち着かせているのであり、
為替取引に多数のプレイヤーが活発に参加しているのです。